2015年3月21日土曜日

彼女はピンクが好き。

2015年3月。
ちょっと嬉しいことがあった。

私の住む町、QueenstownでH.O.G. のミーティングがあったのだ。
毎年あるらしいのだが、今年は最高の設備と最高数のメンバーが集まるだろうと見込まれている。その総数はおそらく国内から集まる2000台になると予想されているらしい。私はH.O.G.のメンバーに入っていないので情報が入ってこない。

それにしても2000台とはすごい数だ。たった400万人の人口の国で2000台とは!
2000人に1人がハーレーでやってくる計算である!本当か?
にもかかわらず私はメンバーに入っていないというのもなんだが。


ところで私の愛車XL1200Cは中古車であるが、ペイントジョブが凝っていて、だから私が引かれたというのがあったのだが、そういうわけで前のオーナーがすっごく気になった、一体どういう人なのかっていうことに。

買ったバイク屋から聞かされていたのは前のオーナーは62歳の女性だったということだった。そして彼女は更にアップグレードしたのに今は乗っているということだったのだ。

彼女のあだ名はScary Mary
直訳すればそのまま「恐怖のメアリー」だが、私が想像するに「来るなら来やがれ、めありーより」みたいな感じなのかもしれないと思った。会ってみたいようなみたくないような。

実は今週の地元新聞の表紙を飾っていたのが彼女だった。H.O.G. の集まりを楽しみにしているみたいな記事だった。Maryという名前があったがScaryとは書いておらず、代わりにMad Maryと書いてある。しかし、ピンクのHarley Davidson のトライクにまたがっている彼女の写真を見て、間違いなくこの人だと思った。興味本位で会ってみたくなった。


昼前、町の会場を目指してエンジンをかけた。天気はこれ以上はないというような素晴らしい青空が広がっている。バイク乗りには最高な条件だ。

町までの5分の道のりだが、果たして何台のHarleyとすれ違ったろうか。ものすごい数だ。私の数台前にも町に向かうハーレーがあった。

会場は、町の一角を封鎖してハーレー専用スペースとなっていた。

公民館みたいなところは一時的にハーレーショップとなりハーレーブランドの服が所狭しと並んでいた。

入り口に新たな500もあったが、人気は、、、。
にしても、Lプレート(日本で言う初心者マーク)が付いているのが愛嬌。
ピリオンを降りて自分で乗ってみたいと女性をターゲットにしているらしい。

このドデカトレーラーがハーレーカスタムショップ。タンクやホイール、ハンドルバーなどあらゆるカスタムパーツを陳列しているのだ。LEDで青や赤に光るフットステップとかもあったけど、私はもうちょっとシンプルなこっちがいい。


ランチを挟んでまた会場に顔を出してみると、いたいた!新聞に載っていた女性だ。
恐る恐る声をかけると気さくに応対してくれた。さすがにScary Maryさんですか?とは言えなかったのだが。

「あなたの昔乗っていたハーレーを今私が所有しているらしい」と私が言うと、「是非今ここにもってこい」と言う。



彼女のトライクに横づけすると、彼女は「おー」と嗚咽するくらいに喜んだ。
「私が乗ってた頃より綺麗に乗ってるねー」とか
「このペイントが懐かしいわー。」といいながらタンクにキスをすると周りで見ていた人たちが「おー、おー、お手やわらかに。」となだめ始めた。

以下、私とMaryの会話。

M「リアフェンダーにも顔があるのは知ってるかい?」
タンクに般若の顔が二つ左右にあって、さらにもう一つはピリオンシートがあって普段は隠れているのだ。
私「ああ、知ってますよ。シート外した時に見ました。そうだなあ、シングルに変えようかなあ。」
M「それがいいよ、あんた!」
私「あ、でも、私は奥さんいるんですよねえ。」
M すかさず手で触りながら「このシーシーバーを取っちゃえば、奥さん落っこちるから、そしたらシングルに変えられるんじゃない?!」

なるほど、Scary Maryはジョークがきつい。
そして、

M「今度一緒に走ろうよ。」「子供はいるのかい?」
私「ええ、3人。」
M「えーと、あなたの後ろに一人でしょ、もう一人は私の後ろ。あとひとりは、、、このキャリアに縛り付けるか?」とトライクの広めのキャリアを指差して横ばいで万歳のカッコをしてみせる。
なるほど、笑いが止まらない。
新・旧のMaryの愛車たちを並べて一枚。
Maryの愛車、Pink-licious と名付けられているのは deliciousをもじったものなのだろう。
塗装にはパールも入っている。

ちなみに私が今乗っているもののペイントジョブにも結構掛けたと言っていた。

ウェストコーストで事故にあって膝をやってしまってから、当時乗ってたのをトライクに改造して乗っていると言っていた。膝にはプレートが入っているとケラケラ笑ってた。


先ほど新聞記事を読み直すとMary 62歳となっていた。ということは私が買ったバイク屋に言われたのは当たらずも遠からずという情報だったということだ。少なくとも私の手に入ってからもう6年の月日が流れているのだから。

いつの日かMaryと一緒に走る日が来るのだろうか。
その時は妻を連れて行くのがいいのだろうか、それとももうシングルシートになっているのだろうか。



2015年3月8日日曜日

雨を避けての5日間ツーリングの最終日。

2015年2月。ツーリング5日目。

今日も天気がいい。素晴らしい。
一晩中開けっ放しにしたドアでも部屋は寒くはなくちょうどよかった。
まだ意外に早い時間に目が覚めてモーターパークの割ときれいなバスルームで顔を洗い周りを散歩した。昨日の夕方と違って誰一人歩いていないGreymouthのビーチだった。

さあ、出発だ。
Hokitika (ホキティカ) まではあっという間、ここで朝食にしよう。以前訪れた時には思いっきりハズレの店に入ってしまって、この町の印象をすっごくがっかりさせてくれたんだけれども、今日はどうだろうか。

ガソリンを入れてからTrip Advisorで見てみる。どこも似たり寄ったりでよく見ないでも一緒だということが分かった。町内を流してみる。そんなに多くない数のストリートなので、あっという間に見て終わる。こないだ車を運転中に見つからなかったCafeが目に飛び込む。ここにしよう。

ここは大当たり。こないだ来れなくて残念でしょうがない。上品にクロワッサンなんかにジャムをつけちゃったりしてお洒落に朝食をとった。

この町の中心にあるアイコンである時計台を360°から見た後、ビーチに行ってみる。この町のもう一つのアイコンである、流木で作った"Hokitika"という大きな文字が砂の上に立っているのだ。

今回行ってみるとちょっと違った。なんでも流木でアートを作るコンペティションがあったらしく、砂浜一面に様々なアートが広がってた。中でもこれが私のお気に入りになった。素晴らしいアイディアだと思う。拍手。
ゆったりとアートを堪能した後、いよいよWestcoast特有の鬱蒼とした森の中を走り始める。車の数は少ないがレンタカーがその5割を占めていると思われるので油断大敵だ。

Ross (ロス)という小さな町がある。金が出て流行ったところらしいが、今はその面影は少ない。現在でもある一家がまだ掘り続けているらしいが。
ここから出発するのか、自転車ツアーがたくさんいた。小さなオレンジの三角の旗を横に車道側に突き出し、走るのだ。バスが行くとこをフォローしているので荷物は水とスナックくらいなのだろうか。たくさんの人たちが点々と自転車をこいで私と同じ方向に向かっている。レンタカーも多いがレンタサイクルも多いということだ。


面白いところがある。一応Cafeなのだが、見てくれはそうではない。外にはでっかいサンドフライが捉えられている。この大行事の詳細は壁に貼ってある。中に入っても異様な雰囲気を醸し出している。冗談が(森の中だけに)盛りだくさんのメニューやらグッズが置いてある。変なもの、くだらないもの見たさにぜひ一度訪れてみたいところだ。
四方八方50kmをを森に囲まれて生活するということはそういうことなのかもしれない。


こういう静かで何の変哲も無い湖が多い。名前も覚えられない。でもそれが特徴と言えるのかもしれない。ちなみにこれはLake Ianthe (レイク・イアンズィ)と呼ぶのだろうか。読み方さえよくわからない。この辺は何度通っても興味がそそられないのは何故なのだろうか。

この後は無心になって走る。森と湖が交互に現れる。Queenstownとかの派手な色の湖と違い森もダークな緑なので目に嬉しいということがない。ただただ緑の芝生と背高ノッポの木々だけが目立つ。自然とはと、意味深いことを考えながら、体で感じながら走るのだ。


あと5分走ればFranz Josef (フランツ・ジョセフ)に着くところだったのに、手前を大きく右に曲がると暗黒の雲が頭上にあり、雨の中に突入した。正確には雲の下に入っていったのだ。結構大粒の雨だ。屋根のあるところまで行くのが先かずぶ濡れになるのが先かだったが屋根の方が近かったようだ。ガソリン入れなかったがここでカッパを着る。
あーあ、とうとう降られてしまった。折角2泊も延長して避けてきたのに。残念でならない。まあ、天気予報を見ればほぼその通りだったのだが。午後も遅くなるほどに雨が上がってくる予定だ。

もうこれからはずっと雨なのだろう、としょぼしょぼと走り始めた。隣のFox Glacier (フォックス・グレーシアー) まではずっと狭いワインディングだ。距離は23kmと短いのにえらく遠く感じる。交通量が多いせいだろう。例の自転車も多かった。

また前方で車が詰まっている。先頭車両がめたくそ遅いのだ。車の運転自体ロクスポできない人がどうしてレンタカーを借りて旅をしようなどと思うのだろうか。その考えがまず理解できない。

その先頭車両は橋の上のそんなにきつくないイエローラインの左カーブで半車分右にはみ出して進んでいる。左側の橋の壁が怖いのだろう。対向車の事はお構い無しに。まったく気が滅入る。

あんなのがブラインドコーナーで目の前から出てきたらお陀仏だろうな。そんな事故が起こったときには一体、誰のせいなのだろうか。

ぶつかる方が悪いのか、ぶつかられた方が悪いのか、海外から来た人も運転できる国の法律が悪いのか。誰が悪くてもただ単に運が悪かったのだけのことなのだろうか。でもこれは果たして、先進国に当てはめていい事柄なのだろうか。考えることは多い。


Foxに着いてガソリンを入れる。今見た車のことをスタンドのおばちゃんと話すと、ウンウンと大きく頷いた。例の車を通報したいので警察署はないかとの私の問いに、たまに来る程度だと言う。この町に警察は必要だと実感した。




ランチを済ますと天気は回復していた。幸い、雲は山にくっついているようだ。ここからはカッパもいらない。やっぱりカッパ着て走るのは好きではない。

ここでもいいカフェに巡り会えた。これは嬉しい。


嬉しい時は結構止まってカメラを取り出すのだ。


まっすぐなところも多い。
森を切り開いて道を作っただろうから、両脇ともものすごい高い木が並んでいる。言ってみればジャングルの中を突き進むのだ。これがWestcoastの醍醐味だ。
実は天気が悪いほうが雰囲気があるのだが、青空だってもちろん悪くない。


海だって見える場所がある。唯一だが。Bruce Bay (ブルース・ベイ) だ。
ここにもHokitikaに負けないくらいの個人アートがあるが、それはとてもつまらなく石をまっすぐに積んだだけの見た目も良くないものたちだ。

昔、車で来た時には大荒れの天気でバシャバシャと波が道に掛ってて度肝を抜かれたけども。



しばらく行くと通行止になった。 橋の工事だと。10分も止まらされた。雨が降ってなくてよかったなあと思った。何もすることがなく、交通係のおじさんが目の前で遅めのランチのサンドイッチを飲み込むように食べていたのを見ていた。


いよいよHaast (ハースト)に着く。
携帯は未だに圏外の村だ。未だにこの町はそういう町なのだ。身隠れしたくなったら来ればいいところだ。

昔の首相は休みの日に趣味のクロスカントリースキーをするのが良いと言っていたらしい。健康的だし、第一、電波が届かないので誰からも捕まらないからと。この国の首相の言葉らしい。

2台のバイクとトイレで会って、情報交換。
私の行く方向から来たらしく、天気は大丈夫だったと言っていた。目の前が結構グレーで暗かったので心配していたのだ。
彼らは先ほどのBruce Bayまで行くと言っていた。宿なんかあったかな。

そういえば、蜂除けにバンダナを腕に巻くことにした。これなら入ってこれまい。
というか、ここHaastにはいないが峠を越えてから通るWanakaの辺りの対策だ。あの辺はブンブンしているはず。バッチリ準備して、また走り出す。

久々のHaastの峠はほとんど交通量がなく、すっと通り過ぎられた。
見所のある要所の滝も今回はパス。グレーの空では絵にならない。おかげで早く帰れるな、なんて思った。

Wanaka を通り過ぎてすぐにポツポツとやってきた。良いことといえば蜂の心配はなさそうだ。雨の中には飛び回らないのだろう。Crown Range (クラウン・レンジ)峠の上はすっごいグレー空だ。

そのまま行けるかなと思った途端、大粒になり諦めて、大木の下でカッパをまた取り出した。あとちょっとで家だけにとっても悔しい。カッパを着ている間に、確か、Greymouthで宿泊していたと思われる2台のバイクが目の前を過ぎ去っていった。彼らも時間的にきっと今日はQueenstownが宿泊先なのだろう。一日に500km越えの道程はなかなかだ。

峠の山頂に着くまでには雨も上がり、下りは晴天の下を楽しく走れた。もうすぐ家だ。


家に着くといつも遊びに来ている地元の友人達がいつものように食事をたくさん準備して待っていてくれていた。

こうして、3日間で帰るはずのツーリングが5日間になってしまい、無事に帰還した。振り返るととても長く感じた5日間で、とってもいい夏休みになった。

この旅でお世話になった友人たちには全く頭が上がらない。素晴らしい友人たちに私は支えられて、わがまましたい放題に生きているのである。妻にも感謝だ。

またやろうっと思った。



2015年3月7日土曜日

暑い夜。

2015年2月。ツーリング4日目。

昨日と同じようにいつも通りの生活の友人のうちに別れと別れを告げて、子供達が学校に行く時間に私も一緒に出る。

天気はいい。超快晴。気分も最高だ。雨を避けてここに来た甲斐が非常にあったし、懐かしい顔と会えたし、充実した時間を過ごさせてもらった。よくよく考えると彼らとは年末に会ったのだったが、その時は一瞬だったので、今回は色々と良かった。勝手に訪れておいて、全くいい言い草である、と自分でも思う。

先日に通って来た道をそのまま戻るのは実はそんなに好きではないのだが、この快晴なので、そんなに気にならなかったし、ゆっくりと走れたし、度々止まってはカメラを取り出した。

バッテリーを上げてしまったMurchison (マーチソン)で今夜の宿をどこかに取ろうとあちこちチャレンジするが、Franz Josef (フランツ・ジョセフ)や Fox Glacier (フォックス・グレーシャー)の両方ともめちゃ混みで全くベッドがないらしい。慌てた。

こっから丸一日かけて帰ることもできなくもないが、900kmはちと辛い。それにこの快晴、写真を撮りたい放題でそれを棒に降らなくてはならないのはあまりにもつまらない。
しょうがなく、距離を縮めてGreymouth (グレイマウス)に的を定めた。モーターパークはがらすか空いている感じらしい。

移動距離がぐっと縮まり、時間に余裕ができたのでじっと地図を見る。
今回Arthurs Passを通ったので、このハーレーでほぼ、南島の端から端と、真ん中を通り抜けたことになるが、まだ一箇所、行ったことがないのがKaramea (カラメア)だ。Westport (ウエスト・ポート)から95km北上する道で行き止まりである。いつか行ってみたいと思っている場所であるのだが、どうやら今日がそのチャンスかもしれない。

Buller River (ブラー・リバー)沿いをずっと東から西に走る。今日は非常に美しい。何度も今まで通ったことがある場所だが、いつも曇りか雨であった気がするので、よく景色も見られなかったのだ。



 すんごい大きいヘアピンが川に沿っている。写真はパノラマで撮っているので変な風に見えるかもしれないけども、本当にこんな感じなのだ。しかも崖をえぐって道が作ってあり、くぐり抜けていくのだ。その部分はおそらく数百メートルあるのだが、ここは一車線なので、向こう側から車が来ないかどうかよーく見てから侵入しなくてはならない。途中ではち会うと、行き違うスペースがないので、どっちかがずっとバックしなくてはならないので大変だ。

その入り口で写真を撮ってると反対側からHondaがやってきて私の隣に停めた。「今日はあっついな!」とヘルメットを脱ぐと気さくに声をかけてきた。私とは反対回りをしているらしい。Queenstownから2時間離れているOmaramaに住んでいるらしいが、その距離にもかかわらず、私を「隣人」と呼んだのはおじさんのテリトリーの広さがわかる。

今までどこをどうやってきて、これからどうするのかとお互いの情報交換をする。Karameaに昨日泊まっていたとおじさんが言うと、ちょっと運命を感じた。やっぱり行くべきなのだ。おじさんも道があんまり良くないけど、行ったことないならば、行ってみたらいいよ、と勧めた。

我らがそうして話している間にさっき私とすれ違ったメチャッパヤのYamahaのレーサーが戻ってきた。彼は手を上げて挨拶する暇もなさそうだ。ものすごい甲高いエギゾーストと共に一瞬でそのカーブを抜けていった。きっといつもここを走っている人なのだろう。おじさんもここまで来るときに後ろからロケットが来たと言ってたので、ずっと行ったり来たりしている人なんだろう。

その様相を見たおじさんと私はお互い気をつけようねと行って別れた。

ずっとこの川沿いを走るが、ずっと似た景色なので意外にちょっと飽きた。


Westport (ウエスト・ポート)に着いた。何度か来ている町だったが、なぜか違う印象を受けた。確かにあんまり散策していなかったのかもしれないが、まるで始めて来たように感じるほど何も覚えていなかった。田舎っぽい時間ハズレのカフェでランチをする。レッドタイカレーとミルクシェークなどを頼んでしまう。冴えないカフェのおじさんは結構する値段のランチのレジを打ってキッチンに消えた。全くハズレだなあ、なんて思っていると、ミルクシェークを持ってきてくれたのは可愛い女子だった。娘さんなのかな。カフェのおじさん、うまい商売の方法を知らなさそうだ。


町を一通り歩いて見てからバイクにガソリンを入れた。いよいよKarameaに向かって行ってみるのである。

町を出るとしばらくずっとストレートだ。長い長い。向こう側にカゲロウが出ている感じだ。しかし気になるのは上空の雲だ。いつの間にか、グレーの雲が行き先を覆っている。うーむ。軟弱なライダーとしては避けなければならない。急に速度を落とし、行くか行くまいか頭の中で戦うが、軟弱が大勝したので、直ちに引き返した。

諦めと頭の切り替えは早い方である。
また人生を感じた時に行けばいいやと自分を納得させる。今日はその日じゃないと。

昨日世話になった友人が以前Westportの海岸線を走ったらよかったと言っていたのを思い出して、そっち方面に舵を切った。海岸線は綺麗だった。どうやらそれなりに見所があるらしく灯台の看板が出ていたので行ってみた。


遊歩道があり、大したことのない灯台の立っている丘を汗だくになりながら登った。もちろん今日も革ジャン革パンツ。例によって革ジャンは脱いでそのままバイクに置いて歩いたが、あっつい!

がけは見所があったと、割と満足して後にした。
なんせ時間がありありなのだ、今日は早く宿に入ってスパとかに浸かっちゃおうかな、なんて考えながら国道に戻る道を行くと、目の前に迫る暗黒の空。嫌な予感だ。

さすがWestcoastだ。これが実力。
どんどん私の影は薄くなっていった。
ところが、その心配は必要なかったようである。雲に近づくにつれだんだん暗くなっていくのだが、道は右に急角度で曲がり、そのままうす曇りの沿岸線へと続いた。

しばらく行くと、目の前のビーチにある大きな岩のど真ん中が割れていて、その向こう側が見えるのだ。この道は何度も通っていて、ついこの年末、家族を連れて車を運転していたときにも見落としていたものだった。満潮だったのだろうか。これは行くしかない!

駐車スペースには数台のキャンパーバンを含む車が止まっていて、様々に人々はビーチを楽しんでいた。
目の前に流れている川はFox Riverというらしい。別に目立つものでもないのでいつもすっと通り過ぎていたのだろう。

私は革の上下を脱ぎ、持っていた短パンに着替え、ビーチサンダルを引っ掛け、膝くらいまでの浅い川を渡って行った。

その大きな岩は見事に不思議に通り抜けられた。洞窟の向こう側には芝生が引いてあり、誰かの家が3件ほど建っている。「えー‼︎」という感じだ。行ってみればこの岩はその人の家のすぐ反対側にあるのだ。洞窟の岩が。

しかもこの洞窟は中でT字になっており、海に向かってぽかっと開いている。天気が良かったらすっごくすっごくすごかったろうと、想像した。


そんなことに感心しながらビーチを歩いていると二人の男がゴルフクラブを持って歩いていている。砂浜でゴルフをしているのだ。ちなみにホールは先ほどのあのでかい洞窟の穴であると言っている。それならとっても入りやすいだろう。
聞くと、すぐそこの緑の家に住んでいるんだよと。なるほど。


足を乾かして砂を払ってから着替えて、出発した。

その後、NZで1,2の座を争うのではないかと言われている美しいコーストラインを走る。ほとんどがタイトなコーナーで決して走りやすくはないのだが、ため息が出るほど景観がものすごい。私もめちゃくちゃファンである。天気が悪くてもそれなりにいいのがNZのいいところ。


浜辺でサーフィンの体験だろうか、初心者っぽい人が講習を受けているのが見えた。Punakaiki (プナカイキ) に着いたのだ。

いつでもここでは有名なブローホールを見に行くのだが、今日はその手前に看板が立っているのに気がついた。今日はよく気がつく。やはり時間の余裕があると行動が違う。

洞窟探検ができるところがあるのだ。バイクを止めて歩いていく。真っ暗で何も見えないと若い女の子二人が出てきた。私はiPhoneのライトとツルツル滑る石の上を歩くためようにできていないブーツで奥まで入っていった。それでも何にも見えなかったが。でも割と大きな洞窟にびっくり。ここも何度も知らずに通り過ぎていたのだ。


Greymouthだ。宿は海沿いのモーターパーク。町まで遠く不便ではあるが、しょうがない。一人部屋を頼んでおいたのだが、渡された鍵の部屋に行くとベッドがトータル7人分ある。ダブルが一つ、シングルが一つ、そして2段ベッドが二つある。果たしてどのベッドで寝たらいいのだろうか。

それ以外にはテーブルと椅子が4脚。壁は両側ともブロックで奥の壁は石膏ボード。入り口は全面ガラスだが、開くのは入り口のスライドドアだけ。まるで倉庫みたいな作りだ。安いのはいいのだが。それにしても、、、である。

そのガラスの部分が西に面しているため、部屋の中が暑い。窓をというか、ドアをずっと開けっ放しにしておいていくらか冷やそうとしなくてはならないが、出かけるのにこれじゃセキュリティも何もない。しょうがない。


ご飯の時間だ。町まで走って5分くらい。あちこち回ってみてみるが、どこも開いているのか閉まっているのかよくわからない店ばかり。この町の規模の金曜の夜にしては人通りも車通りも少ない。

Westcoastで有名なエールハウスには行かないで遠く離れたOtagoの老舗のエールハウスに入ったのはここは以前に来たことがあって美味しいと思ったからだった。今日も美味しかった。地味な町の割にいいシェフがいるに違いない。


もうじきサンセットの時間だと、宿の隣のビーチに直行すると夕焼けがすごいことになっていて、浜辺にはおそらく50人近くの人がいたと思う。明らかにバーより多い人数だ。

みんなそれぞれに考え事をしながら夕日を眺めているようだった。ただそれだけで、十分なシーンだったのだ。

私もそれに参加したが、やはりその場には私一人だけ黒革ジャンに黒パンツにブーツで浮いていた。

今日はよく眠れそうだ、と思ったのだが、帰るとやはり部屋の中が暑い。
ドアは開けっぱなしで寝ることにした。やはり部屋には窓がある方がいい。



まだつづく。



2015年3月4日水曜日

ビーチに行くならこのカッコ

2015年2月。ツーリング3日目。

Motueka (モトゥエカ)、南島の北端は常夏だ。ここの気候は本当に素晴らしい。私が住むQueenstownとは全然違う。湿気は明らかにあるがまるで太陽の近さまでが違う気がする。
いつかリタイアするならこの温暖な気候のこの辺りに住みたいという人たちは私の周りに多い。植物が冬に元気に咲いていそうだ。人間だって、そうなるだろう。

泊めてもらった友人のうちは通常時間に通常通りに勤務先に、そして学校にそれぞれ出かけて行く。私が起きた時にはもう彼は出かけていて、子供達は学校に行く準備をしていた。お母さんはもちろん彼らの面倒を見ながら日常仕事を忙しくしている。そんな忙しい中、奥さんはわざわざ私のために朝ごはんまで用意してくれていた。誠に頭が上がらない。

そうして皆が出かけていくと私に鍵を残した。留守番しているのはそこのうちの大きな犬と猫と、鶏数羽だ。ワンちゃんは見知らぬ客人に尻尾を振ってくれている姿を窓から眺めた。

ま、一人、知人のうちの中で別にやることもないので、ビーチサンダルを引っ掛け散歩に出た。車で通るとすぐだけど、歩く以外とあるものだと感じた。

この町をこんな風に歩いて見るのは初めてだった。私にもちょうどいいサイズの町の気がする。Queenstownみたいな華やかさはかけらもないが、なんとなく嬉しくなるのだ。それは明るく陽気な色があちこちにありふれているからだろう。眩しい太陽と、実にマッチしている。


上空を見上げるとスカイダイバーが5人落ちてきていた。悲鳴は聞こえなかったが。この町でもスカイダイビングは流行のアクティビティーなのだろう。

いささか歩き疲れて、ビーチサンダルずれができそうになったので海側まで出るのはやめて家に戻る。
直ちにいつもの革ジャン革パンツを着込み、このあっつい中出かけて行った。Gパンとシャツとかも持って来れば良かったが短パンしかないのでしょうがない。

行き先は更に北へ。まずはいつも来ると必ずと言って訪れるところ、Kaiteriteri Beach (カイテリテリ・ビーチ) だ。黄金色の砂と青い海がおりなすコントラストが超売りのGolden Bay (ゴールデン・ベイ) の代表格だ。今年元旦には車で通ったのだが、それはものすごいことにすっちゃかめっちゃかになっていた。キャンプ場が幅7mほどの道路を隔てた目の前にこの美しいビーチがあるのだからしょうがない。ビーチとしてははっきり言って狭いほうだが、そんなところに人々は群がる。

この砂の上をずるずると黒いブーツで歩く全身黒まみれの革を着た男は私の他に誰もいないビーチだった。こんな暑い中、5分が限界だった。やや、ウルトラマンの気分だ。
あんなビニールみたいな服を着て、怪獣と3分間戦うのと同じかそれくらい暑かったはずだ。


停めていたハーレーに近寄るのもこれまた熱いこと。跨ると逆に革パンが熱を遮ってくれていて実は熱く感じるのが少ないのかもしれないが、とか、もう考える能力が限界だった。走り出すと、まあ、そうでもなくなるのがせめてもの救い。


で、これだ。洒落のつもり?


この先はまた隣のビーチ、Marahau (マラハウ) に続く道なのだが、NZは本当にユニークだと思う。この道幅が最大で、狭いところはおそらくこの2/3ぐらい、この荒れているアスファルトで、しかも住居の出入りがいくつかあるところで、制限速度、80km/hである。ほとんどの車はセンターラインをどこかしら踏んで走っているだろう、この道を80キロである!

一体、この国の道路事情はどうなっているのだろうか。とても行政がちゃんと仕事しているとは思えない。いかれちゃってる。

でも、驚くなかれ、いつだったか数年前に来た時は確か100km/hの看板だった。
そうか、ちゃんと仕事しているのか。でもどういう経緯で100km/hから80km/hになったのかとても気になる。恐るべしカイテリテリ。

制限速度を全く越えることなく、無事にその超狭通りを通り抜け、一旦小さな森を抜けて、それからTakaka Hill (タカカ・ヒル)を越えていく。なんでも何百もコーナーが続いているらしい。ぐんぐん登ってがんがん降りるのだ。

地元の車はみんな慣れているのだろう、ちゃんと速い。交通量の多い真夏のホリデー真っ最中じゃあこうはいかない。速いながらも、やっぱりバイクの加速だと追いついてしまうので、道を譲られるのだが、きつい登りのタイト気味なコーナーで「ほら、抜いてよ、今」みたいに急にパッと避けられると「あらっ」、とタイミングを崩してイン側に切れ込ませるのに時間がかかったりして、避けてもらったのに更にスピードを落とさせてしまったりして申し訳なかったです。女性ドライバーも速い速い。こうキビキビ走ってもらえるとカッコいー、とか思ってしまう。

峠を越えた北側は眼下がすごい景観だ。走っていてもコーナーごとに素晴らしい景色に見とれてしまいそうだ。

Takaka (タカカ) はお気に入りの町だ。Motuekaを更にあっけらかんとさせた感じだ。

NZにもあるダジャレ商品。 ジンジャーベアー(ビアー)。アルコールは入っていない。



どこでもだいたいハンバーガーを頬張る。自分の中のバリエーションの無さが寂しい。
腹を満たすとさらに奥に走りに行く。


Te Waikoropupu Springs (通称:ププ・スプリング)と呼ばれる南半球で湧き水量と冷たさNo1の座を、そして63mもの透明度を持つ南極にしかない水に匹敵すると言われているらしい。今では遊歩道もきれいにできていて、見晴台も立派だった。遊泳禁止どころか、水に接触禁止の看板まで立っていた。お触り禁止なのである。初めて来た19年前には確かタンクを背負って足ヒレつけて泳いでいる人がいたが。人が多くなるとルールも変わる。いいのか悪いのか。


方向を変えてビーチに行く。Pohara (ポハラ)だ。
いつも綺麗なビーチで癒される。去年は季節外れに家族でキャンプに来たところだ。オンシーズンに来ると足の踏み場もないくらい、そこらじゅうテントで、音楽がガンガンなのだ。
干潮時だったのか、波打ち際は遠かったので、見るだけにした。




とってもやる気のある道路。長身の方々は注意?

Tata Beach (タタ・ビーチ)に着くと、これまたプライベート感が半端ない。まだシーズンといえばシーズン。ビキニのお姉さんもそこそこ少なくないくらいいる。もちろん、おばあちゃんもビキニでいる。家族づれは少ないようだ。

そんな風景を砂浜を歩きながらしばらく見ていたのだが、やはり上下黒ずくめの私は浮いている。

このまま飛び込みたい衝動にかられるが、海パンがない。この旅に持って来てはいるものの、今、ここにない。すごい落ち度だ。

しょうがなく、ビーチを後にして帰ることにする。
しばらく上着を脱いでTシャツ姿で走ると、なんと気持ちのいいことでしょう。
これぞ、快感。
なんで早く気がつかなかったのだろうか。

4日目につづく。