帰る日。
ここはMethven (メスベン)カタカナで書くとなんか変な町の名前だ。とてもちっちゃいしすごい田舎。畑ばかりが永遠と四方八方に広がっている。麦やコーンやアブラナや色々だ。
家の窓の向こうに見えるのはこの町の唯一のゼニバコMt Hutt (マウントハット) スキー場があるが、もちろん冬の間しか、人はいない。ここの家主が家を建てたばかりの頃、もっとよく見えていた山だったが、隣人の防風林が大きく育ってきて、その山を半分隠してしまい景色を変えてしまったと嘆いていた。山が見えるからここに住むと決めたのにと。
あの木がもっと高くなって安全といえなくなる時が来たら切られるよと彼女を慰めた。風が超強い所でもあるので、その前に自然に倒れるかもしれない。
その時が来た時の彼女の嬉しそうな笑顔を想像した。
目覚めはスッキリだ。しかし実はまだ鼻が詰まっててなんとなく頭は重い。軽い風邪の症状だ。
私はここ半年以上、朝ごはんは取らないようにしていると伝えていたにもかかわらず、それを無視して作ってくれる。Kuzzyさんは喜んで貪ってた。コーヒーマシーンで入れてくれたロングブラックが体に滲みる。
いざ出発。
奥さんに別れを告げると3人の子供達も出てきて手を振ってくれる。一番下の女の子はまだ小さいが一番の目立ちたがり屋。誰に似たのだろうか。旦那は仕事で留守中でも、奥さんがちゃんとおもてなししてくれるということに感謝した。
さて、早速道に迷う。朝だけに、太陽がまだ低いところにあるのであちらが東だとはわかるのだが。まっすぐな道をとりあえず東に向かう。ずっとずっと不安になるくらい真っ直ぐだ。するといきなり、鳥がどこからともなく飛んできて、私のブーツを履いた右足のくるぶしくらいに当たり、エンジンとの隙間を抜けていった。インターコムで話し中だった我々だったが、私の悲鳴に驚いたようだった。
だいぶ後ろを離れて付いてくるKuzzyさんが見た時にはその鳥が道路でくたばっていたらしい。まあ、しょうがない。
何度も来ているので、かすかに憶えていた交差点を右に曲がる。おー、ここだ、ここだと。直角に近いコーナーを右に曲がると全開に近いくらいの加速でペースに乗る。と、とたん、また、鳥の大群が目の前を急によぎり、それを避けようと両足をグッと上げたら右足の靴底に、ゴンッと当たった。なんという確率だろうか。いわゆるライダーキックをしてしまい、鳥をまたもや倒してしまった様子だ。
先ほどの事故現場から今の事故現場まで2分と離れていないのにだ。びっくりである。それにしても鳥たちはどうして100キロで走る物体の直前をあえて横切ったりするのだろうか。
もし私が鳥ならそんなことはしないと思うが。
無我夢中でひた走る。天気は良い。結局、昨日の峠を越えてからMethvenに着くまでが悪かっただけで、あとはずっと天気が良い。素晴らしいツーリング日和である。
Tekapo(テカポ)までは2時間くらいあったのだが、あっという間に着いた気がした。人気の日本食のレストラン、ランチの予約をしていてよかった。たった二人だけども、最近は入れないときもある。以前は一人でも入れなかったほどだ。テカポには店が足りない。
いつもの納豆サーモン丼を食べた後、お勧め上手のお姉さん店員から聞いた驚きのたった$3の手作りクッキー付き抹茶アイスクリームを別腹に入れ超満足した我々はまた走り出す。
最高峰のMtCook (マウントクック) が目の前に見えるプカキ湖に着くとぼんやりと晴れていた。
レンタルカーが非常に多い。みんな景色のいいそこかしこで急ブレーキを踏む。風物詩みたいなものだ。でもそれが数ヶ月続くのだが。
Omarama(オマラマ)ではいつものカフェによりまたコーヒーブレイク。なんか好きなのだ、ここは。店員にも名前まで憶えられている。以前仕事でこのちっぽけな村に滞在が長かったことがあるからだのだが、でも実は、彼らのビジネスは最近日本の観光ツアー会社と密接になっているということも関係しているのだろう。カフェにくっついた服屋では数人の日本人が雇われている。カフェで働くここのオーナーの娘も日本に留学生で行ったことがあるらしく、とても好感を持っているそうだ。
日本を嫌われないようにしないと、と私もわずかながら彼らの前では背筋を伸ばしてしまったりする。
もう、ここまで来るとなんとなく庭を走っている感覚になる。確かに2時間はあるのだが、コーナーのの一つ一つを覚えているとまでは言わないが、見慣れている風景だ。きっともっともっと時間をかけて走っていけば、新発見もあるのかもしれないが。脇道もそれてしまえば、まだ未知の世界だが、ほとんどは砂利道なのでハーレーで入ることはない。
この2時間の道のりは過去二日間の感想と反省と思い出と、ずっとずっと走りながら家路に着いた。天気に恵まれ、カフェではいろんな目にあい、人と出会い、美味しい食事にありつき、何しろ無事に帰ってきた。それぞれの家族が待つ家に。
実際のところ、彼らは別に待ってた訳ではいなかったようだが。
また行こう、と思った。
2016年2月9日火曜日
2016年2月4日木曜日
新春! 3Days ツーリング パート2
先日の続き。
目が覚める。一人で一部屋を使うというちょっと贅沢なツーリング。今までにない良い感じだ。以前Kuzzyさんと一緒の部屋に泊まった時、私が寝る前に眠られて、いびきが耳についたのを憶えている。私が先に寝てしまえば、その逆の立場だったろうに。
そして歳上のKuzzyさんは朝がめっぽう早い。歳を取るごとに早くなると本人は言っていて下手すると4時半には起きてしまうと言う。同じ部屋で寝るのはやはりちょっと辛いと思う。ごそごそ朝から動かれたら寝不足になってしまうではないか。
さて、半年前の冬から朝ごはんを抜いている生活をしている私なのだが、それをKuzzyさんに強要するつもりもないが、食べずに走り出すことにした。もう9時半だ。
ホテルのすぐ前の道に平行に線路が走っている。有名な?トランツアルパイン鉄道につながっている線路だ。いつか乗ってみたいと思っている鉄道で、南島を縦断するルートだ。山岳地帯を抜けていくのがすごく魅力的だと言われている。
今日はその線路にほぼ沿って走る予定だ。
しかしながら、せっかくGreymouth (グレイマウス)まで来ているのだから、ちょっぴり北へ走ってPunakaiki (プナカイキ)を見ていきたいと私が言う。あんまり乗り気じゃなかったKuzzyさんだったが渋々OKを出してくれた。
気持ちのいい朝だ、本当に清々しい。ここがGreymouthだなんて信じられない。
早速止まって写真をパチリ。水平線はやはり平らだ。丸くはない。向こうにはオーストラリアがあるはずだ。
展望台に着いたので、また止まる。この道はNZで一番好きだという人が少なくない。
この海岸沿いに走っていくのだ。
これはめちゃいい。
道中、Kuzzyさんは「いやあ、いいなあ、いいなあ」とずっと言っていた。
来て良かったね。
崖っぷちに張り付くようにおそらく立っているのではないかと推測される家々の入り口を通りすがりに見ると、彼らは一体どんな暮らしをしているのだろうかと思う。
するとKuzzyさんは「住んでもいいなあ」、とまで言う始末。
今日は天気がいいから本当にいいけど、さ、天気悪い日も見た方がいいんじゃない?と補足を入れる。
ウエストコーストの天気は舐めたもんじゃないはずだ。もちろんKuzzyさんもそのことはご存知だ。
プナカイキのパンケーキロックスに着く。
ここはウェストコーストの三大観光ポイント。本当に3つか知らないが。
波が激しく切り立った特徴ある形状の崖にぶち当たり、吹き塩になって見事なまでのパフォーマンスを満喫できる。Blow Hall (ブローホール)と言う。
バイクを止めるともう駐車場は一杯。人の多さがすごいことになっている。
我々はまっすぐにカフェに向かった。やっぱりKuzzyさんには空腹が耐えられなかったのだろう。なんとなく誘ってみると二つ返事だった。
パンケーキロックでパンケーキを食べようなんてオヤジギャグにもならないことを言いながら店に入ると、目に飛び込んで来たのはまさにそのメニューだったので、迷いなくそれをオーダー。
朝とも昼とも言えるブランチを食すことにした。
5分とせずに渡されたブザーが鳴り、カウンターに取りに行く。最近こんな感じの所をそこかしこで体験した。いずれも人が多い、空港とか、そういう所だ。あまり好きではない。客扱いされてない感じがするからだ。カフェは小さいに越したことがない。
さて、Kuzzyさんも同じものをすぐ後ろで頼んでいたのに、そのブザーは待てど暮らせど鳴らない。私はもう食べ終わる直前だ。カウンターに伺いに行くとあと5分だそうだ。なぜだ?
ようやく出てきたものは私のとは見てくれからして大きく違うものだった。第一にすごく焦げてる。だらしない観光地のレストランなんてそういうものなのである。残念でならないが、そういうことが多い。やはり、寄るもんではない。
とりあえず腹を満たした二人は散歩がてら、パンケーキロックを見に行く。
しかしながら、この時は満潮ではなかったらしく、見事な潮吹きなど微塵も見せなかった。まあ、何度も見たことはあるのでいいのだが。
さらにもうちょっと奥の展望台まで行ってみようとさらに誘う。パンケーキの一件で更に機嫌を損ねたKuzzyさんを説得。
そうしてここに着いた。
どのくらいここにいたのだろうか、これからもうちょっとだけ先に行くのだが、その道を眺めるだけでウキウキする。
ちょうど一台のバイクが走り抜けて行った。次は我々の番に違いない。
やはりこの景色、数軒、豪華な家が建っているのが見えたし、最近、土地開発しているのだろう、この近くに大きなエリアが宅地場になっていた。きっとこれから豪華な家々が建つのだろう。景観が乱れなければいいが。
ちょっと行った先にある部落でUターン。同じ道を帰ってくる。これもまた悪くない。
でも心持ち向かい風になっているのに気づいた。
帰りも家を見るたびに、Kuzzyさんはいいなあ、住みたいなあ、と何度も呟いていた。
Gleymouth に戻り、ガソリンを入れていよいよArthur's Pass(アーサーズパス)に向かう。実はこの道の一部はまだこのハーレーで通っていないところだということに気づく。道はいい。73号線だ。
ほとんどが程良いRで、高速のまま駆け抜けられるコーナーであり、起伏もあり、渓谷が見え山が見え、目も楽しませてくれる。交通量が高いのが難だが。つい先日もその坂道でバスがバンに当たってひっくり返り何人かが亡くなったとか。傷跡がガードレールにしっかりと残っていた。
前に通った時にちょっと気になったパブがなんとこの山奥にある。Arther's Passの一歩手前、Otira (オティラ)というところだ。入ってみようよと言う私をKuzzyさんが咎める。でも止まる。
建物の横にあるキャンプテーブルでカップルがバーガーを食べていた。お味は?と聞くと、時間はかかったけど、美味しいよ、と。中も面白いから入ったらいいよと勧められる。
一体どこが玄関なのかよくわからないというか、はっきりしない造りのドアを開けて入る。中ではもっと若い、イギリス人?らしく見えるカップルがフィッシュ&チップスを食べていたが他には誰もいない。
周りを見るとなんだか今まで見たこともないものがたくさんある。どちらかと言うと、まともな趣味ではないというのがよくわかる。しかし実に興味深いものであった。
ウロウロしていると、店員らしき人に声を掛けられる。何か用かと。とっさに何か食べたいかななんて言いながら、カウンターに近づきメニューを見ようとして目に入ってきた看板の文字があった。Whitebait(しらす)のサンドイッチだ。うちのは新鮮でうまいよというからそれにした。今シェフが休憩なので、できるまで15分待ってくれと言われる。
我らがバイカーだと気付くと、その店員は「俺は昔、ヤマハのワークスのシェフをやってて、世界中を駆け巡っていたんだ」という。今はこの村を買い占めて俺の夢の国を作るんだなんていう感じで話し始めた。確かにそこに見えるもの片っ端から彼が買ったものらしい。
建物の上を指差して、後で上の部屋を紹介させてくれと、言いながら持ってきたサンドイッチと代わりに奥に引っ込んでいった。ふと気づくと先ほどまでいた若いカップルはいなくなっていて、ほとんど食べていないフィッシュ&チップスがテーブルに残されていた。
目の前のサンドイッチは大丈夫なのだろうか。
恐る恐る口に運ぶと、意外や意外、めちゃくちゃうまい!これはびっくり。見てくれと味は一致しないのだ。本当に今までで一番うまいWhitebaitだった。
食べ終わると、そのサンドイッチを作ってたシェフのおじいさんが館内ツアーをしてくれることになった。いろんなアンティークを一つ一つ手にとって紹介してくれる。驚いたのはEdgsonと書いてあるむかーしむかーしのレコードプレーヤーだ。手で回すのだ。しかもまだ音もちゃんと出る。
上の部屋には先ほどのヤマハのおじさんが見せてくれた。ここのオーナーだという。2億もかけてここを直したそうだ。150年前の形を純粋に復元したそうだ。家具もここまで気合が入っているのは初めて見た。
残念なのはトイレとバスルームが各部屋にないことなのだが、役所からの命令で、こと建物は昔のままの形を保持しなくてはならないらしい。割り切って昔の造りを味わっていただくためにそれもその味だということで妥協したらしい。商売繁盛して欲しいところである。そういえば我々がそんな話をしている最中にオーストラリアから来たという3人組のおじさんライダーがチェックインに来ていた。大きなおじさん3人が小さな部屋で一緒に寝るらしい。健闘を祈る。
馬車がめちゃくちゃたくさんあって、将来ここは博物館になるらしい。こんな自転車もあったので、Kuzzyさんが挑戦。おじいさんシェフが見本を見せてくれた後、Kuzzyさんに突き出し煽ったのだった。
そういえば、と、ヤマハのおじさんオーナーは帰りがけに、サンドイッチどうだったかと我々に聞いた。うまかったよ、と答えると、それなら良かったと言った。
あのおじいさんのシェフはまだ見習い中なのだとポツリと言った。ほう。
さて、思いがけずにいい時間をまったりと過ごしてしまった我らは東に向かう。これからまだ上り、峠を越えるのだ。
道は前回通った時は工事中で、長い砂利道だったのだが、その工事が終わったせいで、素晴らしく綺麗な道になっていた。
下りに入ると、こちらも工事していて、もっと広い真っ直ぐ目な道になるようだ。すぐ脇にはその私が乗りたい列車のトランツアルパインの線路が走っている。
いよいよ峠も終わりな感じなると奇岩群がある。右に左に、ちょっと遠めなのだが、確かに見える。すぐ下まで歩いて行くことができるのだが今日はもう時間切れだ。
今夜の晩はMethven(メスベン)だからほんのもう一息である。
ところが峠の端あたりまで降りてきて東側を見るとなんと雨雲が待っているではないか。びっしりと高層のグレーの雲が覆っている。気温も全く違う、確実に寒い感じだ。
そういえば、昨日からずっとなんか体調が悪い。鼻は止まらないし、確かに頭も微妙に痛いし、熱もある気がする。風邪なのか?
降らないでくれ、とお願いしながらひたすらまっすぐな道をメスベンに向かって走る。本当にまっすぐな道だらけで、しかも平らなので、どっちに向かっているのかよくわからない。まっすぐなだけに間違えたら大変なロスになる。慎重にGoogle Mapsで見て確かめる。
この辺の道路標識の表示方は住んでいる人にしかわからない。と思う。
とても意地悪なのだ。
あと何キロと時々見える看板なのだが、まっすぐ走っているにも拘らず、距離が増えていったりする。方向は合っているのかなあと、自信をなくしてしまう。
なんとか降られずに着いたMethven、友達のうちに泊めてもらう。でもその友達は不在でおくさんにお世話になる。非常に料理が得意で、それもそのはず、シェフなのだ。
お美味しい食事をたんまりとご馳走になり、ご満悦の二人だった。最後にはKuzzyさんもいいことがあったと1日の幕がめでたく下りたのだった。
目が覚める。一人で一部屋を使うというちょっと贅沢なツーリング。今までにない良い感じだ。以前Kuzzyさんと一緒の部屋に泊まった時、私が寝る前に眠られて、いびきが耳についたのを憶えている。私が先に寝てしまえば、その逆の立場だったろうに。
そして歳上のKuzzyさんは朝がめっぽう早い。歳を取るごとに早くなると本人は言っていて下手すると4時半には起きてしまうと言う。同じ部屋で寝るのはやはりちょっと辛いと思う。ごそごそ朝から動かれたら寝不足になってしまうではないか。
さて、半年前の冬から朝ごはんを抜いている生活をしている私なのだが、それをKuzzyさんに強要するつもりもないが、食べずに走り出すことにした。もう9時半だ。
ホテルのすぐ前の道に平行に線路が走っている。有名な?トランツアルパイン鉄道につながっている線路だ。いつか乗ってみたいと思っている鉄道で、南島を縦断するルートだ。山岳地帯を抜けていくのがすごく魅力的だと言われている。
今日はその線路にほぼ沿って走る予定だ。
しかしながら、せっかくGreymouth (グレイマウス)まで来ているのだから、ちょっぴり北へ走ってPunakaiki (プナカイキ)を見ていきたいと私が言う。あんまり乗り気じゃなかったKuzzyさんだったが渋々OKを出してくれた。
気持ちのいい朝だ、本当に清々しい。ここがGreymouthだなんて信じられない。
早速止まって写真をパチリ。水平線はやはり平らだ。丸くはない。向こうにはオーストラリアがあるはずだ。
この海岸沿いに走っていくのだ。
これはめちゃいい。
道中、Kuzzyさんは「いやあ、いいなあ、いいなあ」とずっと言っていた。
来て良かったね。
崖っぷちに張り付くようにおそらく立っているのではないかと推測される家々の入り口を通りすがりに見ると、彼らは一体どんな暮らしをしているのだろうかと思う。
するとKuzzyさんは「住んでもいいなあ」、とまで言う始末。
今日は天気がいいから本当にいいけど、さ、天気悪い日も見た方がいいんじゃない?と補足を入れる。
ウエストコーストの天気は舐めたもんじゃないはずだ。もちろんKuzzyさんもそのことはご存知だ。
プナカイキのパンケーキロックスに着く。
ここはウェストコーストの三大観光ポイント。本当に3つか知らないが。
波が激しく切り立った特徴ある形状の崖にぶち当たり、吹き塩になって見事なまでのパフォーマンスを満喫できる。Blow Hall (ブローホール)と言う。
バイクを止めるともう駐車場は一杯。人の多さがすごいことになっている。
我々はまっすぐにカフェに向かった。やっぱりKuzzyさんには空腹が耐えられなかったのだろう。なんとなく誘ってみると二つ返事だった。
パンケーキロックでパンケーキを食べようなんてオヤジギャグにもならないことを言いながら店に入ると、目に飛び込んで来たのはまさにそのメニューだったので、迷いなくそれをオーダー。
朝とも昼とも言えるブランチを食すことにした。
5分とせずに渡されたブザーが鳴り、カウンターに取りに行く。最近こんな感じの所をそこかしこで体験した。いずれも人が多い、空港とか、そういう所だ。あまり好きではない。客扱いされてない感じがするからだ。カフェは小さいに越したことがない。
さて、Kuzzyさんも同じものをすぐ後ろで頼んでいたのに、そのブザーは待てど暮らせど鳴らない。私はもう食べ終わる直前だ。カウンターに伺いに行くとあと5分だそうだ。なぜだ?
ようやく出てきたものは私のとは見てくれからして大きく違うものだった。第一にすごく焦げてる。だらしない観光地のレストランなんてそういうものなのである。残念でならないが、そういうことが多い。やはり、寄るもんではない。
とりあえず腹を満たした二人は散歩がてら、パンケーキロックを見に行く。
しかしながら、この時は満潮ではなかったらしく、見事な潮吹きなど微塵も見せなかった。まあ、何度も見たことはあるのでいいのだが。
さらにもうちょっと奥の展望台まで行ってみようとさらに誘う。パンケーキの一件で更に機嫌を損ねたKuzzyさんを説得。
そうしてここに着いた。
どのくらいここにいたのだろうか、これからもうちょっとだけ先に行くのだが、その道を眺めるだけでウキウキする。
ちょうど一台のバイクが走り抜けて行った。次は我々の番に違いない。
やはりこの景色、数軒、豪華な家が建っているのが見えたし、最近、土地開発しているのだろう、この近くに大きなエリアが宅地場になっていた。きっとこれから豪華な家々が建つのだろう。景観が乱れなければいいが。
ちょっと行った先にある部落でUターン。同じ道を帰ってくる。これもまた悪くない。
でも心持ち向かい風になっているのに気づいた。
帰りも家を見るたびに、Kuzzyさんはいいなあ、住みたいなあ、と何度も呟いていた。
Gleymouth に戻り、ガソリンを入れていよいよArthur's Pass(アーサーズパス)に向かう。実はこの道の一部はまだこのハーレーで通っていないところだということに気づく。道はいい。73号線だ。
ほとんどが程良いRで、高速のまま駆け抜けられるコーナーであり、起伏もあり、渓谷が見え山が見え、目も楽しませてくれる。交通量が高いのが難だが。つい先日もその坂道でバスがバンに当たってひっくり返り何人かが亡くなったとか。傷跡がガードレールにしっかりと残っていた。
前に通った時にちょっと気になったパブがなんとこの山奥にある。Arther's Passの一歩手前、Otira (オティラ)というところだ。入ってみようよと言う私をKuzzyさんが咎める。でも止まる。
建物の横にあるキャンプテーブルでカップルがバーガーを食べていた。お味は?と聞くと、時間はかかったけど、美味しいよ、と。中も面白いから入ったらいいよと勧められる。
一体どこが玄関なのかよくわからないというか、はっきりしない造りのドアを開けて入る。中ではもっと若い、イギリス人?らしく見えるカップルがフィッシュ&チップスを食べていたが他には誰もいない。
周りを見るとなんだか今まで見たこともないものがたくさんある。どちらかと言うと、まともな趣味ではないというのがよくわかる。しかし実に興味深いものであった。
ウロウロしていると、店員らしき人に声を掛けられる。何か用かと。とっさに何か食べたいかななんて言いながら、カウンターに近づきメニューを見ようとして目に入ってきた看板の文字があった。Whitebait(しらす)のサンドイッチだ。うちのは新鮮でうまいよというからそれにした。今シェフが休憩なので、できるまで15分待ってくれと言われる。
我らがバイカーだと気付くと、その店員は「俺は昔、ヤマハのワークスのシェフをやってて、世界中を駆け巡っていたんだ」という。今はこの村を買い占めて俺の夢の国を作るんだなんていう感じで話し始めた。確かにそこに見えるもの片っ端から彼が買ったものらしい。
建物の上を指差して、後で上の部屋を紹介させてくれと、言いながら持ってきたサンドイッチと代わりに奥に引っ込んでいった。ふと気づくと先ほどまでいた若いカップルはいなくなっていて、ほとんど食べていないフィッシュ&チップスがテーブルに残されていた。
目の前のサンドイッチは大丈夫なのだろうか。
恐る恐る口に運ぶと、意外や意外、めちゃくちゃうまい!これはびっくり。見てくれと味は一致しないのだ。本当に今までで一番うまいWhitebaitだった。
食べ終わると、そのサンドイッチを作ってたシェフのおじいさんが館内ツアーをしてくれることになった。いろんなアンティークを一つ一つ手にとって紹介してくれる。驚いたのはEdgsonと書いてあるむかーしむかーしのレコードプレーヤーだ。手で回すのだ。しかもまだ音もちゃんと出る。
上の部屋には先ほどのヤマハのおじさんが見せてくれた。ここのオーナーだという。2億もかけてここを直したそうだ。150年前の形を純粋に復元したそうだ。家具もここまで気合が入っているのは初めて見た。
残念なのはトイレとバスルームが各部屋にないことなのだが、役所からの命令で、こと建物は昔のままの形を保持しなくてはならないらしい。割り切って昔の造りを味わっていただくためにそれもその味だということで妥協したらしい。商売繁盛して欲しいところである。そういえば我々がそんな話をしている最中にオーストラリアから来たという3人組のおじさんライダーがチェックインに来ていた。大きなおじさん3人が小さな部屋で一緒に寝るらしい。健闘を祈る。
馬車がめちゃくちゃたくさんあって、将来ここは博物館になるらしい。こんな自転車もあったので、Kuzzyさんが挑戦。おじいさんシェフが見本を見せてくれた後、Kuzzyさんに突き出し煽ったのだった。
そういえば、と、ヤマハのおじさんオーナーは帰りがけに、サンドイッチどうだったかと我々に聞いた。うまかったよ、と答えると、それなら良かったと言った。
あのおじいさんのシェフはまだ見習い中なのだとポツリと言った。ほう。
さて、思いがけずにいい時間をまったりと過ごしてしまった我らは東に向かう。これからまだ上り、峠を越えるのだ。
道は前回通った時は工事中で、長い砂利道だったのだが、その工事が終わったせいで、素晴らしく綺麗な道になっていた。
下りに入ると、こちらも工事していて、もっと広い真っ直ぐ目な道になるようだ。すぐ脇にはその私が乗りたい列車のトランツアルパインの線路が走っている。
いよいよ峠も終わりな感じなると奇岩群がある。右に左に、ちょっと遠めなのだが、確かに見える。すぐ下まで歩いて行くことができるのだが今日はもう時間切れだ。
今夜の晩はMethven(メスベン)だからほんのもう一息である。
ところが峠の端あたりまで降りてきて東側を見るとなんと雨雲が待っているではないか。びっしりと高層のグレーの雲が覆っている。気温も全く違う、確実に寒い感じだ。
そういえば、昨日からずっとなんか体調が悪い。鼻は止まらないし、確かに頭も微妙に痛いし、熱もある気がする。風邪なのか?
降らないでくれ、とお願いしながらひたすらまっすぐな道をメスベンに向かって走る。本当にまっすぐな道だらけで、しかも平らなので、どっちに向かっているのかよくわからない。まっすぐなだけに間違えたら大変なロスになる。慎重にGoogle Mapsで見て確かめる。
この辺の道路標識の表示方は住んでいる人にしかわからない。と思う。
とても意地悪なのだ。
あと何キロと時々見える看板なのだが、まっすぐ走っているにも拘らず、距離が増えていったりする。方向は合っているのかなあと、自信をなくしてしまう。
なんとか降られずに着いたMethven、友達のうちに泊めてもらう。でもその友達は不在でおくさんにお世話になる。非常に料理が得意で、それもそのはず、シェフなのだ。
お美味しい食事をたんまりとご馳走になり、ご満悦の二人だった。最後にはKuzzyさんもいいことがあったと1日の幕がめでたく下りたのだった。
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